とてもかるくて、ゆっくりめ

自作ライトノベル掲載,執筆企画の進捗状況などなど、小説・ライトノベルを中心にあれこれ書き連ねます。



電子書籍版『メリュとセツの竜騎速達』発売中です。

飛竜の配達録-言葉を交わせぬ者達-4

 メリュの遠慮ない言葉を耳にしたリオーネは、不思議なものを見た子どものように目を丸くして。
「はい。生まれつきほとんど見えてませんが……」
 何故そんな事を聞くのか、と言わんばかりの自然さで答えを返した。
「そっか。答えてくれてありがとう。変なこと聞いちゃってゴメンね」
 誤魔化すようなはにかみ笑いを浮かべ、メリュはリオーネへと頭を下げる。謝られると思っていなかったのか、リオーネは慌てて「す、すみません。気を遣わせてしまって……」とか細い声でメリュをなだめた。
 踏み込んだ質問がきっかけになったのか、セツの目には2人の距離が少しずつ近づき始めたように見えた。それ自体はとても喜ばしい事だ。だがセツはこの状況が、正確に言うならリオーネの態度が気になって、どうしても素直に喜ぶことができなかった。
 あんな不躾な質問をされたにもかかわらず、なぜリオーネは嫌な顔1つしなかったのだろう。生まれながらに背負ったハンデ――自分の意志ではどうしようもない現実について他人に触れられるのは、決して気持ちのよい事ではないはずなのに。
「セツ、どうかした?」
 セツの思案はメリュの声で遮られた。我に返ってみると、眼前には2つの不審そうな顔。そんなに長い時間考え込んでいたのだろうか、とセツが不安に思った瞬間だった。
「セツ?」
 疑問の声をあげたのはリオーネだった。思い返してみると、彼女の名前を聞いただけでこちらは名乗っていない。自然と会話が進んでいたせいで失念していた。
「君の隣にいる子の名前。ワイバーンって聞いたことがある?」
「…………………………すみません」
「な、なんだか謝らせてばっかりでこっちが申し訳なくなるよ……」


 ***


「――よし、そろそろいいかな」
 簡単な自己紹介を終えた頃、焼けた肉の香りが周囲の空気を彩った。肉の塊を火から下ろし、テーブル代わりの木の板――リオーネの入っていた箱のフタだが――の上に広げる。メリュが香辛料を惜しげも無くふりかけると、ツンとした匂いが食欲を刺激した。
「はい。熱いから気をつけてね」
 メリュが差し出した肉は、彼女の手の平ほどの大きさがあった。分厚さも相当なもので、小柄な少女が食器なしで食べるのは少々無理があるように見える。
『待て、そのままじゃ流石に食べにくいだろう』
「え? かぶりつけばいいじゃない」
『お前と一緒にするな』
 セツに一蹴され、メリュはしぶしぶ肉を切り分け始める。一口大に切り分けられた肉を受け取ったリオーネは、居心地悪そうに身体をよじらせながら「すみません」と謝った。セツの発する言葉を理解できていなくても、自分の事で言い争っているのだと想像がついたらしい。
 メリュはやれやれと言わんばかりに嘆息し、 リオーネの手へ肉を突き刺したフォークを丁寧に握らせた。
「こういう時は、"ありがとう"でいいんだよ?」
リオーネは急に手を触れられた事に驚き、大げさに身体を震わせる。戸惑いにパクパクと口を開閉させ、ややあってから。
「あのっ……ありがとう、ございます」
 消え入りそうな声でそう伝えた。


「さて。お腹も膨れたことだし、ちょっと質問していいかな?」
 山盛りの肉を全て平らげた後。
 リオーネの了承を得て、メリュは溜まりに溜まっていた質問を遠慮無くぶつけた。馬車の行き先。急いでいた原因。そしてリオーネが箱の中にいた理由。リオーネは、それらの質問に対しどう答えるべきか悩んでいる様子で、忙しなく顔をあちこちに向けていた。しばらく間を置いてようやく回答が纏まったのか、リオーネはメリュのいる方向――若干逸れていたが、メリュがこっそりと真正面へと移動した――を向いて、たどたどしい口調で語り始める。
「あの馬車は、ヌシ様の下へ向かう途中だったのです」
「ヌシ様?」
 聞きなれない言葉にメリュが眉をひそめ、セツに目配せした。「知ってる?」と問う青い瞳に、セツは首を横に振って返事をする。『ヌシ様』――その単語をセツが耳にしたのはこれで2度目だが、1度目に聞いた時、何を指しているかまではわからず仕舞いだった。
 疑問符を浮かべる1人と1匹だが、その反応を返す事をリオーネは予想していたらしい。慎重に言葉を選びながら、リオーネはヌシ様についての説明を始めた。
「えっと……ヌシ様とは、私の故郷で崇められている、雨と豊穣の神様です。故郷は山奥の小さな村なのですが、私の記憶している限りでは、大きな飢饉が起きたり水不足に悩まされたりといった事はありませんでした。これはヌシ様のご加護によるものだと言い伝えられております。そこで日頃の感謝を込めて、年に一度、ヌシ様へ貢ぎ物を送る習わしがあるのです」
 不慣れさが全面に出たたどたどしい説明だったが、セツは彼女の言いたいことがおおよそ理解できた。それはメリュも同じようで、リオーネにわかりやすい説明を求めるようなことはしなかった。
「で、そのヌシ様に貢ぎ物を届ける最中に事故が起こったと」
「はい。貢ぎ物は新月の夜までに届けるよう厳しく言われておりましたので……」
「次の新月は――明日か。なるほど」
 ヌシ様とやらの居場所がどこかはわからないが、期日が明日の夜となると、急ぎたくなる気持ちはわかる。そうして焦った結果、期日に間に合わせるどころか直接手渡すことすらできなくなったのは皮肉としか言いようがない。
 ふと、セツの脳裏に疑問が浮かんだ。
『肝心の貢ぎ物とやらはどこにあるんだ? 馬車の中にはそれらしい物など見当たらなかったが』
 行き先と目的は理解できるが、手ぶらで行ってはまるで意味が無い。一体どういうことだろう。
 察しの良いメリュなら何かわかるだろうか、と彼女の方へ目をやる。
「セツ。リオーネの言ってる貢ぎ物って言うのは――」
 すると、待っていたかのようにメリュは口を開いた。だが、何か様子がおかしい。いつもの茶化した説明口調ではない、どこかためらいを感じさせる憂いを帯びた声色。セツの不安を駆り立てる調べが、疑問への回答を示した。
「――……リオーネ自身。生け贄って奴だと思う」

『メカつく』ダメでした

 タイトルのままです。
 昨日(実質今日ですが)、ようやく『メカつく』の第1回クリエイティブ応募&第2回企画書の選考結果が発表されました。結果について何かと思うところはありますが、ここで愚痴っても仕方がないのでスルーして本題へ。

 せっかくなので、今回応募した企画書の内容を簡単に紹介しておきます。

1.『叛天装姫ラーズグリズ』
 リアル寄りの作品。正体不明の敵を人型ロボット【エルフリート】を使って倒し、存亡の危機に瀕した人類を救う……作品と見せかけて、実際は自分達が敵側で倒していたのは人間の兵器でした。という話。
 巨大ロボットを操ってたと思ってた主人公が実は巨大ロボットそのものだったり、終盤で人間側に寝返ってかつての味方とバトルしたりと、60分枠でやれる一杯一杯の山場を用意したのですが、細かな要素からして趣味の塊だったせいかどうにもウケが悪かったようです。
 時間に余裕ができればノベライズして形にしたいなと思うくらいには気合入れた企画だったので、何かしらの形で日の目を見せてあげたいところです。


2.『断禍烈鋼ザンオウガ』
 こちらはスーパーロボット寄り。クリエイティブに色々な方が参加できる可能性を出そうと、いわゆる「ご当地◯◯」のイメージを出せるコンセプトとして『スーパーロボット×魔法少女』の組み合わせでトライしてみました。もっとも、この組み合わせ自体は過去に先駆者がいるので、ちょっとひねりを入れて「魔法少女の魔法でロボットを変身させる」ようにしてます。
 こちらは突貫作業&しっかりとした構想が固まらなかったので、まぁ通らなくて当然かなと。キャラ自体は結構好みのものを用意出来たので、どこかで流用しようと思います。


3.『真淵のローゲイル』
 諸事情合って応募が間に合わなかった企画ですが、埋もれっぱなしにするのも勿体無いので。
 もともと上記2種だけ応募するつもりだったのですが、第1回クリエイティブ通過作品『孤高のシングラリティ』に応募されたこのメカデザインを見て一目惚れしてしまい、こんなコンセプトの機体を活かせる作品を……と思って案だけ練ったものです。
 とある理由で人類が深海に居を構えることになった世界で、海の外にある世界を目指して超巨大ロボットを駆り妨害する敵と戦う、といった感じの作品。
 どれだけ機体が大きく重くても、海の中なら誤魔化しが聞くだろうという安直な発想と、海中戦メインのロボアニメが記憶になかった(メカアニメならそれなりにありますが)のでそこを攻めたいなと思ってました。思ってただけです。



 ……とまぁ、『メカつく』第2回にはこんな企画でチャレンジしてました。結果、どれも通過せずクリエイティブも落選だったので、これにて私の『メカつく』参加は終わりになります。結果は残念でしたが、過程で生まれたコネクションや経験は、普通に執筆活動を行っていても手に入らなかったであろうものばかりでした。
 関わってくださった皆様方、本当にありがとうございます。もしよろしければ、今後ともお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

飛竜の配達録-言葉を交わせぬ者達-3

 ヌシ様。聞きなれない単語だ。ヌシ――主の名が示す通りであれば、どこかの場所を治めている者なのだろうか。当然ながら、セツは自分がそんな大層な存在になった覚えはない。
「……違うのですか?」
 黙り込んだセツを不審がってか、少女が次なる問いかけを投げかけた。
 セツは悩んだ。本来であれば、一言「違う」と伝えるだけで済む話だが――。数刻の間を置いて、意を決したセツは灰色の瞳を真正面から見据え、告げた。
『あ、ああ。ヌシ様とやらではないが』
 しかしセツがどう言葉を発しても、少女は不安そうに眉根を歪めるだけだった。
 やっぱりか、とセツは嘆息した。竜以外に竜語を理解できる存在など、セツの知っている限りではメリュを含めてたった3名しかいない。メリュを介さずに会話でコミュニケーションを取るのは無理だ。
 ジェスチャーで否定の意思を伝えられないかと、首を振る、翼を動かす等、考えられるだけの行動を取ってみた。が、少女から納得いった様子は見られない。得られた成果と言えば、せいぜい不安が不審にすり替わった程度か。
 会話はダメ。ジェスチャーもダメ。完全に手詰まりとなってしまった。雨上がり特有のじっとりとした空気が、少女のぼんやりした視線とともにしつこく絡みついてくる。彼女の乱れた金髪が風で擦れる音さえも、セツを急かすようだった。――もう逃げたい。弱気がピークに達した時。
「おまたせー。気分はどう?」
 声が聞こえた。メリュだ。両腕に抱えた肉の山、その脇から覗いた顔が、セツにはいつもより2割ほど輝いて見えた。少女へと微笑みかけるメリュ、それとは真反対に、少女の顔は突然割り込んできた第三者への警戒心で再び影が落ちていた。
「ええと、あなたは……?」
「ん? ああ、通りすがりの配達屋だよ。そっちの子もね」
「配達屋さん、ですか」
 少女の反応は生返事だけだったが、正体が分かったことで警戒は薄れたようだ。身体の強張りを解き、落ち着かない様子で視線を周囲に巡らせた。
「……私なんかにどんなご用でしょう」
 焚き火の準備を進めていたメリュが、少女の質問を受けてその手を止めた。少女からでは陰になって見えないだろうが、メリュの顔は露骨に面倒くさそうだ。
 面倒臭がっている理由をセツは察した。少女は自分の置かれている状況が理解できていないのだ。よくよく考えてみれば、少女はずっと箱の中にいたせいで事故現場を目にしていないのだ。無理もない。
 メリュはセツへ目配せする。「素直に伝えるべきだろうか?」と問いかける瞳へ、セツは少し悩んだ後、頷いて返答した。
「落ち着いて聞いてね。君の乗ってた馬車が雨で事故を起こしたみたいなんだ。私達は偶然そこに居合わせてね。気を失ってる君を運良く見つけたんだよ」
「事故、ですか」
 少女は頭に巻かれた包帯に手を当て、自分へ言い聞かせるように反芻した。意味を噛み締め、安堵と戸惑いをため息に乗せた直後、少女はハッとした表情で口を開く。
「あの、御者さんはご無事でしょうか?」
「彼は……私達が着いた時にはもう」
 少女は「……そうですか」と力のない呟きを発した。当人はまだ事故に遭った実感が湧かない様子だが、身体の方は落下の恐怖を刻み込まれたのか、微かに震えている。メリュも心なしか居心地が悪そうだ。嫌な役回りを押し付けてしまった、とセツは自分を責めた。

「――助けていただいてありがとうございました。私はリオーネと申します」
 しばらくして少女――リオーネは、ぎこちないながらも笑顔でメリュへ向けて頭を下げた。自分がウジウジしていても仕方ない、と割り切ったのか、メリュもにこやかに返答した。
「お礼なら隣の子にも言ってあげて。君を見つけたのはその子だからさ」
 突然話を向けられたセツは、「余計な事をするな!」と内心で叫んだ。先ほどコミュニケーションを取ろうとして失敗したばかりなのに、今更どんなやり取りをしろと言うのか。リオーネもまた対応に困ってか、落ち着きのない目線を空中に向けるだけだった。
 ふと、メリュは難しい表情を浮かべ、自らのこめかみを人差し指でトントンと叩いた。何事かとセツが様子を見ていると、メリュは手元にあった焚き火用の枝の1本を掴み、リオーネの近くに向けて投げた。弧を描く枝をセツは目で追う。枝と草がぶつかる軽い音が、セツの鼓膜を震わせた。リオーネも不思議がってか、音のした場所へと引っ張られるようにして首を向けた。
 意図の掴めないセツ,リオーネとは対照的に、メリュは納得のいった様子で口を開いた。
「ねぇリオーネ。変な事聞くようだけど……ひょっとして君、目が悪い?」

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