とてもかるくて、ゆっくりめ

自作ライトノベル掲載,執筆企画の進捗状況などなど、小説・ライトノベルを中心にあれこれ書き連ねます。



電子書籍版『メリュとセツの竜騎速達』発売中です。

飛竜の配達録-言葉を交わせぬ者達-2

「まだ温かい。この子、生きてるよ」
 箱から少女を抱え出しながら、メリュは自分に言い聞かせるような口調で告げた。
「頭打っただけで済んだのは不幸中の幸いかな。箱の中に居たから外に放り出されなかったんだろうね」
 メリュの見立てでは、頭部からの出血が多いものの傷自体は浅く、命に別状はない。との事だった。手当を受ける少女の穏やかな顔に、セツも釣られて表情を緩ませる。
 ほどなくして、メリュは作業の手を止めて深い息をついた。
「これでよし。セツ、ちょっとの間だけ、この子の様子見ててね」
 少女の背を木に預けたメリュは、セツの背負った装備から革製の袋――調理用の道具を入れたもの――を手に取り、雨の中へと飛び出していった。少女が目覚めた時のために何か作るつもりだろうが、道具だけ持ってどうするつもりなのだろうか。
『……まぁ、なんとかするだろう』
 セツは考える事を放棄して、与えられた仕事をこなすことにした。もっとも、やるべき事は少女の経過観察のみ。実質的に休憩のようなものだと思っていいだろう。
 セツは少女の隣に身を伏せた。気が抜けたせいか、一気に全身を脱力感が襲う。思えば、ろくな休息も取らずに精神を尖らせ続けていた。気づかない内に疲れが溜まっていたらしい。起きて様子を見なければ、と抗ったものの、セツはそのまままどろみの中に意識を落としていった。

 薄く開いた目に映る空は、夕日の色に染まっていた。
 寝過ぎたか、とセツは慌てて身を起こした。辺りにメリュの姿が見えないため、それほど長い時間寝ていたわけではないはずだ。と自分に言い聞かせ、少女の居るであろう場所へ目をやる。幸い……と言って良いのかわからないが、彼女はまだ眠り続けていた。寝ている間に逃げられていた、などという失態を晒さず済んだことにセツは安堵した。
 そして気づいた。もし少女が目覚めた時、メリュがここに戻ってきていなかったらどうなるのだろう。少女の視点で考えてみれば、事故に遭って気がついたら隣に巨大な化け物が鎮座していた、なんて状況を冷静に受け止められるだろうか? 無理だ。間違いなくパニックを起こすに決まっている。落ち着かせようにも、セツは人間の言葉を理解できても話すことはできない。――よく考えたら、これは非常にマズいのではないか。セツの心中が焦りに埋め尽くされた時。
 動揺が伝わったのか、少女が微かに身動ぎした。
「ん……」
 続いて寝ぼけたような声。ダメ押しと言わんばかりに、少女の双眸がゆっくりと開かれていく。そして、灰色の瞳がセツを真っ直ぐ捉えた。――叫ばれる。反射的にセツは身構えた。
 ところが、予想に反して少女は冷静だった。眼前にいるセツには目もくれず、周囲をゆっくりと見回していく。辺りをひとしきり眺め終えた後。
「……着いたんでしょうか?」
 頭に巻かれた包帯を気に手を当てながら、小首を傾げて呟いた。抱えた膝の間に顔を埋め、ぼーっと地面を見つめ始める。
 セツは対応に困った。騒がれるのはマズいと思っていたが、まさか完全に無視されるなど考えもつかなかった。竜より包帯の方が気になるとでも言うのだろうか。
 長い沈黙が訪れた。少女はただただ地面を眺め、セツは少女に生温い視線を送り続ける。木々のざわめきがやたらとうるさく感じた。
『お、おい』
 にらみ合いの末、先に動いたのはセツの方だった。セツの声を意味のある言葉として認識できるとは思えないが、存在をアピールするだけなら意味が通る必要はない。
 声が届いた瞬間、彼女は弾かれたように顔を上げ、セツの方へと視線を向けた。困惑と恐れが、夕日に照らされた彼女の顔を青く染める。――こんな顔を向けられるのはやはり慣れない。自分が起こした行動の結果だとしても、だ。
 我ながら面倒な奴だ。と、セツは自嘲した。ざわつく心に鞭を打ち、できるだけ敵意を感じさせないようゆっくりした動作で、少女の目線まで顔を下げる。襲いかかる意思が無いと伝わってくれれば良いのだが。
 意味を成さない短い言葉が、少女の口から漏れ出る。落ち着きなく左右の指を絡め、居心地が悪そうに身体を震わせた。
 再び気まずい静寂が訪れるのかとセツが覚悟した時、少女が意を決したように唇を引き締め、震える声でセツへ語りかけた。
「あ、あの……ひょっとして、あなたがヌシ様ですか?」

本日からGoogle Playの100円セールです

本日から『Google Play』さんの方で、対象作品の100円セールが始まるそうです。
このセールは、これまた本日から開始される「ペプシを買ったら100円分のGoogle Playコードがもらえる」キャンペーンと連動しているそうで、早い話が「ペプシを1本買ったら映画や本が無料で楽しめます」という事みたいですね。

わざわざ記事にしている辺りで察していただけたかと思いますが、このセールの対象作品にララノコン作品が含まれております。
https://play.google.com/store/search?q=%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%81%AA%E3%83%A9%E3%83%8E%E3%83%99%E3%80%80%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9&c=books&hl=ja
この機会に、気になっていた作品を手にとってみてはいかがでしょうか。


もちろん『メリュセツ』も安くなっておりますので、コーラを片手に電書版、そして続編の方を読んで頂けると幸いです。

飛竜の配達録 -言葉を交わせぬ者達-1

 大粒の雨が、ぬかるんだ地面へ足あとを刻みつけていく。黒い雨雲は山を覆い尽し、水滴のヴェールによって数歩先の見通しさえつかない状態だ。鳥が、獣が、そして旅人が――山に足を踏み入れていた全ての存在が、留まることを知らない雨粒の行進の前にひれ伏す他なかった。無謀な者に慈悲を与えるほど山は優しくない。彼らはそれを知っているから。
 故に山で痛い目を見る者は、無謀な挑戦者か無知な被害者のどちらかである。果たして、馬車の下敷きになっているこの男は一体どちらだったのだろう。物言わぬそれを見下ろしながら、灰色の飛竜ワイバーン――セツは自問した。

 現場を発見したのは単なる偶然――いや、それ自体が事故のようなものだった。雨宿りの最中に、目の前へ馬車が滑り落ちてくるなど誰が予想できただろう。少し間が悪ければ、自分まで巻き込まれていたかもしれない。思い返すだけで肝が冷える。
 馬車に何が起こったのか調べるために、セツは長大な翼を羽ばたかせた。雨粒を吹き飛ばしながら山の斜面に沿って飛行していると、ほどなくして山道らしき平らな道に辿り着く。着地したセツの視界に飛び込む、泥まみれの山道に刻まれた車輪の跡と、盛大に壊れた柵。どうやら先ほどの馬車はここから落ちたらしい。足場と視界の悪さが引き起こした、単なる事故と見て間違いないだろう。足裏に纏わりつく泥の不快感に顔をしかめながら、セツは落下した馬車の下へと向かった。
 改めて斜面を下りてみると、想像していたよりも落ちた距離が長い事に気付かされた。満足に身動きも取れない状態で、長時間に渡って痛みと恐怖を与え続けられたのだろうか。全くもって嫌な最後だ。
『メリュ、そちらはどうだ?』
 脳裏に描いた嫌な想像を振り払うように、セツは大声を発した。声を向けた先は、馬車の脇に屈みこんでいる小さな人影だ。セツが傍らに舞い降りると、人影は不快さで満ちた顔をセツに向けた。
「えーと……うん、ポッキリ」
 自分の首元をトントンと叩きながら、白髪の少女――メリュは、脇に横たわる馬に目を向けた。それだけで彼女の言わんとする事は理解できた。
 重苦しいため息と共に立ち上がるメリュ。その動作が緩慢なのは、ずぶ濡れになった防寒具が邪魔しているだけではないだろう。
『雨宿りしてる場合ではなくなったな』
 見ず知らずの相手とはいえ、このまま雨ざらしにしておくのは忍びない。できる範囲で弔ってやるのが、この場に居合わせたものの勤めだろう。セツはそう考えた。
「だね、流石に死体と一緒に雨宿りは勘弁だよ。あんまり動き回りたくないけど、別の場所を探そう」
 しかし、メリュの口から出た言葉は、セツの思い描いていたものと別方向のものだった。
『弔ってはやらないのか?』
 セツはメリュの顔を覗き込みながら、怪訝そうに問いかけた。白髪の隙間から覗く青い瞳には、哀れみや同情のような感情は一切見えない。ただただ、この状況が「迷惑だ」とだけ語っているように見えた。
「やらない方がマシだよ。埋めたところで、後から獣に掘り返されて餌になるだけなんだから」
 ついさっきまで生きていた人間を餌呼ばわりか、とセツは呆れた。遠慮のない発言はいつも通りだが、今回は状況が状況だ。もう少し言い方というものがあるだろう。モヤモヤとした感情のままに、セツはメリュへと突っかかった。
『人が死んでるんだぞ』
「人間だから、他の生き物だから、って問題じゃないよ」
 メリュは濡れた前髪をかき上げながら、ばつが悪そうに呟いた。責めるわけでもなく、諭すわけでもなく、ただ「自分の考えは変わらない」と主張する芯の強さ持った声色で。突き放すような態度にむっとしながらも、セツには返すべき言葉が思いつかなかった。
 説得を諦めたセツは、馬車を身体で押し上げ、男の身体を自由にした。埋葬のための穴を掘ってやりたいところだが、前肢のないセツには難しい注文だ。足の爪を地面に突き立て、何度引っ掻いても、ぬかるんだ土に歪な爪痕が増えるばかりだ。一向に掘り進む気配はない。
 もどかしさを噛み殺しながら、セツはひたすら穴を掘り続ける。やがてセツは、疲れに作業の足を止めた。彼の目の前には、小動物1匹を埋められる程度の穴しかなかった。
 へたり込み目を伏せるセツ。ふと、彼へと近づく足音が聞こえた。うっすらと開いたセツの目に、馬車から剥ぎ取ったと思しき木の板を持ったメリュが写り込んだ。
「視界が良くなるまでの暇潰しだからね」
 ほら下がって。と無愛想に告げたメリュは、セツの掘った穴へ木の板を突き立て、そのままスコップの要領で穴を掘り進めていく。黙々と作業を続けるメリュへかける言葉が見つからず、セツは大人しくその場を離れた。
 なんとなく馬車の近くまで戻ったものの、何かできる事があるわけでもない。メリュが望まぬ作業をしている最中に自分だけが休むのも気が引ける。セツは天を仰いだ。黒い雲からは雨が打ちつけるのみで、答えが降ってくる形跡はなかった。
 そのままボーっと、降り注ぐ雨に身を委ねていた時、セツは固いものがぶつかるような音を耳にした。音のした方向にある物は壊れた馬車のみ。風で飛ばされた木か何かがぶつかったのだろうか。
 気になって馬車のそばまで歩み寄ったが、それらしいものは周りに転がっていない。不審に思ったセツは、視線を馬車の中に向けた。内部はメリュが確認したため、中がどうなっているのか見るのは初めてだった。
 車内には紐で縛られた木箱があるのみで、椅子や装飾の類は一切見られない。馬車というより荷車だな、とセツは心中で呟いた。中を一望したが、結局音の出処らしいものは見つからない。気のせいだったか、とセツが結論づけた時、目の前で木箱が微かに動いた。驚きに身をすくませるセツ。恐る恐る木箱へ首を近づけると、緩んだ蓋の隙間から、微かに鉄のような臭いが漏れでていた。血の臭いだ。
『メリュ!』
「何? こっちも結構大変なんだけどー」
 非難するようなメリュの声を尻目に、セツは木箱を首で器用に手繰り寄せ、紐を解く。メリュの到着を待つ間すら待てず、蓋を開け放ったセツは、中にあったそれを見て言葉を失った。
「ちょっと、勝手に人の荷物開けちゃダメでしょ! 何が入ってるかわからな――」
 遅れて到着したメリュも、セツの見たものを視界に捉え、表情を強張らせる。

 箱の中身は、頭から血を流した少女だった。

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