リハビリ用短編そのニ。
テーマは「コッテコテのギャグ(シュールギャグ)」。お題は深嶺ユミアさんから頂きました。
果たしてこんなものでよかったのか……。


「ねー、暇だし何かして遊ぼ」
 放課後、私達以外誰もいない教室で、あの子が唐突に提案してきた。
 自分の席で文庫本を読んでいた私は、面倒に思いつつ本に栞を挟み込む。
「何かって?」
「なんでも」
「なんでもじゃ困るわ」
「じゃあ調べるよ」
「どうやって?」
「W◯kipedia」
 Wikiped◯aはそういう用途で使うものじゃないと思うが、私が損するわけでもないので軽く流した。
 あの子はスマホの画面にスイスイと手を滑らせ、目線を忙しなく上下させる。そのまま検索で暇を潰した方が効率的なんじゃないだろうか。
「じゃあ、『だるまさんがころんだ』とか」
 随分と童心に戻った遊びを提案してきた。
「なんでそれ選んだの」
「パッと思いついた」
 Wikip◯diaを使った意味とは。
「子供っぽいって馬鹿にしちゃいけないよー。この遊びは地球救った事あるんだから。知らないでしょ?」
「知ってるよ『ウル◯ラマン』でしょう」
「なんで知ってるの!?」
「Wikipedi◯よ」
「万能!」
 あの子が叫んだ。なお、これはWiki◯ediaを全く活用しなかった者の発言である。
「とりあえず一回やろう」
「仕方ないわね」
 私はしぶしぶ立ち上がり、教室の壁際へと移動した。
「準備いい?」
「いいわよ」
「「だーるーまーさーんーがー転んだ!!」」
 鬼役の声がハモった。



「わかった。じゃあ卓球やろう卓球」
「随分唐突なチョイスね」
「ポッと思いついたから」
 結局Wikipe◯iaでの検索は全く生かされなかったようだ。
 しかしまぁ、よりにもよって卓球とは。教室でやるにはちょっとハードルが高すぎるんじゃなかろうか。
「どこで?」
「ここで」
「道具は?」
「その辺のを組み合わせればなんとか」
「卓球台は?」
「机いくつか合わせて」
「ラケットは?」
「持ってる」
「ピンポン球は?」
「なし」
「ネットは?」
「真ん中教科書挟もう」
 あらかた聞き終えたので私は黙り込んだ。私の反応を見たあの子は、これ以上ないくらいムカつくドヤ顔をきめ、言い放つ。
「これで問題無いね!」
「わかった。準備しましょう」
 あの子の言葉を受けて、私は近くにあった机をいくつか組み合わせ即興の卓球台を作った。その後、あの子の鞄からネット代わりの教科書と、ラバーがベロベロに剥がれたラケットを引っ張りだす。教科書を机で挟み込み、ラケットをあの子に渡してから、私はあの子の対面へと周りこんだ。
「よーし来なさい」
「……ねぇ」
「何?」
「なんで「ピンポン球無しでどうやってやるんだよ!」ってツッコんでくれなかったの?」
「え? 梨でやるんでしょう?」
「ベタ!」


「ラケットだけ持ってる事についてはこの際置いておいて、せっかくテーブル用意したんだし卓球やりましょう」
「そこ置いとくんだ……」
「球はこれで」
 私は鞄から薄緑色の球体を取り出した。
「何で梨持ってんの!?」
「青りんごよ」
「どっちでもいいよ!」
「帰り食いする用よ」
「丸かじり!?」
「そんなはしたない真似するわけ無いでしょ。当然丸呑みよ」
「もっとひどい!」
「食べ方はさておき、青りんごなら梨の代わりになるでしょ」
「そもそも梨はピンポン球の代わりにならないよ!?」
 注文が多い子だ。仕方なく私は、茶番の種を明かすことにした。
「この青りんごを割ってみると……」
 球体の上部と下部を掴み、力任せに引っ張ると、軽い音と共に上部が分離する。そして私は、中から出てきたものの正体を告げた。
「なんと中から小さなだるまが!」
「原点回帰!」
 素っ頓狂な声を上げながら、あの子が私の持つ球体を奪い取った。
「てかよく見たらそれ青りんごじゃないじゃん! それっぽく塗っただるまじゃん!」
「だるまじゃないわ、『だるまとりょーしか』よ」
「どっちでもいいよ!」
「ハンバーガーとチーズバーガーくらい違うわ」
「些細な差だ!」
 奇声とともに、あの子は手にした『だるまとりょーしか』を床へ叩きつけた。衝撃で中のだるまが分離し、中から黄身色の球体が転がり出る。
「ピンポン球!? なんだー、持ってるなら先に言ってよー」
 そうにこやかに笑って、あの子はピンポン球をつまみ上げる。上半分だけが取れて、中からもう一回り小さいだるまが顔を覗かせた。



「おいお前ら、ちょっとやかまし過ぎるぞ」
 机を元の位置に戻していた時だ。軽くキレ気味の担任が教室へと入ってきた。
「まぁいいや。この前のテストについて面談始めるから、職員室に来い」
「……じゃ、私は先に帰るわね」
 あの子の驚きを耳に聞きながら、私は教室を後にした。


「おい待て」
 ――後にしようとした私の背へ、担任が声を飛ばしてきた。
「お前の面談だろうが。学年トップを置いてどこに行くつもりだ?」